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等の話ではない。好みの問題を相手に強制しても益がない。それぞれが胎内に川柳という共通の遺伝子は持っているのであるから、違う方面に様々な個性を発揮しながら共生し、川柳共和国を形作っていくほうが、川柳という文芸を存続発展させるにはよいのではないか。
生物の生態系は、一見、役に立たないような微生物もヒトの生活に大きく関わっていたり、残酷に見える弱肉強食が食物連鎖の上で欠かせない要素になったりしている。川柳ももし多様性を失って一方向の文芸になるならば、恐らく今日の詩的エネルギーを失い、かえって全体の調和を崩すことになるのであろうと思う。そのような視点で、マスコミや企業が募集する川柳もサラリーマン川柳も見ているつもりである。

 

選句の道で

礒野いさむ
最近の芥川賞に、柳美里「家族シネマ」、辻仁成「海峡の光」の二作品が受賞した。候補作に二人の小説が挙がってから、一か月間ほど、私も文学界などで読んでいたので決定までが楽しみだった。直木賞も芥川賞も該当者なしの回もあるが、最近は二人受賞が多いようだ。
なぜ最高一作にしぼれないのかの声もあるが、文芸春秋やオール読物に掲載される審査員評を読んで、絶賛する人、欠点にこだわる人の声にうなずかされているのだが。文芸作品の評価のむつかしさ、また、楽しさも感じる。
判決に古い時計が動き出す
疑いが晴れたら着たい彩がある
平成柳多留第四集の入賞候補作は三十句あり、何れも秀逸ぞろいだけに、入賞作を選ぶ仕事は、芥川賞審査員なみの苦労だった。
地裁から高裁と長期にわたる裁判で忘れていた古い犯罪

 

 

 

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